目次
第1章:期待に胸膨らむ出発
「よし、ピース!今日は特別な日だ」
私は愛犬のピースに語りかけながら、車のエンジンをかけた。ピースは、その言葉を理解したかのように、尻尾を軽く振った。彼の黒い瞳には、かすかな期待の輝きが宿っていた。
ピースは14歳の柴犬。人間で言えば約80歳。昔のように元気いっぱいというわけにはいかないが、それでも私たちの絆は年々深まっている。
車は滑らかに走り出し、私たちの冒険が始まった。
「ピースなぁピース、覚えてるか?昔はこの道をドライブしながら、お前は窓から顔を出して風を感じていたんだぜ」
私は懐かしく語りかけた。ピースは後部座席でくつろぎながら、私の言葉に耳を傾けているようだった。
約1時間のドライブ。途中、ピースは何度か「クンクン」と鳴いた。
「ああ、わかったよ。おやつだね」
僕は笑いながら、助手席に置いてあるおやつの袋に手を伸ばした。ピースの食欲だけは、まるで若い頃と変わらない。
「ほら、あと少しで着くぞ。湖が見えてきたぞ、ピース!」
車窓から広がる景色に、ピースの耳がピンと立った。彼の目に、かすかな興奮の色が浮かんだ。
第2章:湖畔での散歩
湖畔の駐車場に到着すると、ピースは急に落ち着きを失った。車が止まるや否や、窓からキョロキョロと外を覗き始めた。
「そうだよ、ピース。久しぶりの湖だ。さあ、降りようか」
車を降りると、清々しい空気が私たちを包み込んだ。湖面は穏やかで、夏の日差しを鏡のように反射している。周りには、観光客の姿も見える。県外ナンバーの車が目立つ。
「ほら、ピース。散歩しよう」
リードを付けたピースは、最初こそ意気揚々と歩き出したものの、すぐにペースダウン。
「おいおい、もう疲れたのかよ?」
僕は苦笑いしながら、ピースの様子を見守った。昔なら、この湖を1周どころか2周3周と走り回っていたのに。
「拒否柴」発動だ。ピースは、かつての”忍者走り”の面影もなく、ピタリと立ち止まってしまった。
「わかったよ、ピース。無理はしない。ちょっとずつ行こう」
私たちは、ゆっくりとしたペースで湖畔を歩き始めた。途中、休憩を取りながら、2回ほど違うコースも散策した。
ピースの体力を考えると、昔のように1日中ドライブ…というわけにはいかない。それでも、彼なりに頑張っている姿を見ると、胸が熱くなる。
第3章:帰路につく
「よし、そろそろ帰るか」
帰り道、車の中でピースは深い眠りについた。疲れたんだな、と思いつつ、私は彼の寝顔を時折チラ見した。
「ピース、今日は楽しかったか?」
信号で止まった時、私はバックミラー越しにピースに語りかけた。彼は目を覚まし、小さく「ワン」と鳴いた。
その瞬間、僕は寂しくなった。
ピースは年を取った。もう昔のように元気いっぱいというわけにはいかない。でも、彼の心の中にある冒険心や好奇心は、14年前と少しも変わっていない。
第4章:変わらぬ絆
家に着くと、ピースは再び元気を取り戻した。
「おやつの時間だぞ、ピース!」
その言葉を聞いた途端、ピースは尻尾を振り始めた。年を取っても、おやつへの執着だけは健在だ。
僕は苦笑いしながら、ピースにおやつを与えた。彼の目は、まるで若い頃のように輝いていた。
今日の冒険は、僕らにとって特別な思い出となった。ピースが80歳相当だとしても、僕たちの絆は年々深まっている。これからも、一日一日を大切に過ごしていこう。
そう思いながら、僕はピースの頭を撫でた。ピースは満足げに目を細め、珍しく僕の手に顔をすり寄せた。
この瞬間、僕は幸せだった。